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insight

ケースやディスカッションの勉強のために読んでいる「ハーバード留学記」からの引用です。最近、提出しなきゃいけない書類が山積みで困ってます。質がさらに落ちないよう頑張ります。


insight とは? - 2005/9/26

何度か書いているが、すべてがケース・メソッドで行なわれるHBSでは、授業中の発言で成績の50%が決まる。この年になって成績を気にするのもなんだが、以下の理由から、皆が授業に(ハイハイ手を上げる小学生並に)積極的に参加することになる:

・ 毎年成績が悪くて進級できない者が何名か出る(ボクの90名のセクションでも、2人が事実上落第した。せっかくハーバードまで来ておいて、シャレにならない)

・ コンサルやPEなど、そもそもHBS卒業生がわさわさいる業界では"Honors(優等賞)"でも取らないと差別化できない

・ 成績はさておき、そもそもケースメソッドは発言して参加しないとつまらない

今日ランチをしながら、1年生にいかにして授業中に「ウケル」発言をするか、自分がやってきたことを類型化しながら話をしてみた。一言でいうと、「contrarian 逆張り」なのだが、こんな感じ:

1. 「現場感」で攻める

ケーススタディではロールプレイが重要なのだが、学生の多くは当事者の個別具体的な事情に配慮してなりきることなく、すぐに自分が知っている一般的な「定石」から結論を導きたがる。そこで、ケースの当事者の立場になりきって、視点をぐーんと下げて、そのときの当事者にとってその状況がどう見えたのか、考える。

(例)
皆は現経営陣を交代すべきだと言っている。しかし、よく考えてみてほしい。売上150億、米国南部の田舎のアイスクリームメーカーに、MBAが2名もいること自体すごいことじゃないか。一流消費財メーカーから彼らの代わりを引き抜くと簡単に言うが、それは現実的ではない。経営者としては、むしろ今後彼らの能力をどうやって引き出していくか、考えていくべきではないか。

2. 「ファクツ」で唸らせる

「このビジネスは儲からない」とか、「これはアウトソースすべき」とか、皆がなんとなく信じていることが議論の前提となってしまうことがある。そこですかさず、ケース中(あるいはケース外)のファクツを持ち出して議論すると、誰しも反論できなくなってしまう。リーダーシップやマーケティングなど、ややもすればディスカッションが「ソフト」になりがちな科目で、効果を発揮する。

(例-1)
スポーツクラブ運営は儲からない、との前提で議論が進んでいるが、Exhibit 3によれば、実は業界はまだ年率10%で伸びており、かつ営業利益も10%強出ている。これはまだまだいけるのではないか。

(例-2)
製造は中国など低賃金国は移管すべき、との議論が前提になっているようだが、Exhibit 5を見てみてほしい。コストのなかで人件費が占める割合は実は10%強しかなく、低賃金国に移管することによるメリットは実は大して大きくない。むしろ材料費と償却費が大きいようなので、重要なのは、いかに歩留まりをあげるか、ではないか。

(例-3)
戦後の日本の自動車メーカーは低コストを武器に、輸出で成長してきたと思われているようだが、これは間違っている。しばらくの間、輸出が占める割合はさほど大きくなかった。むしろ、1億という巨大な国内市場を持っていたことこそ、日本の自動車メーカーが戦後成長を果たせた最大の要因なのだ。

3. 「ビジネスジャッジメント」で魅せる

ファイナンスや会計など、数字や分析が多い科目では、ビッグピクチャーのビジネスの議論を忘れ、テクニカルな数字に走りがち。そこを、ぐーっと引いて、数字から離れた経営の視点で議論をする。これによって、「ああそうだ、オレはジェネラルマネジメントの教育を受けているのであり、ファイナンスはツールに過ぎないのだ」ということを皆に思い出させる。

(例)
(コストが円建て、売上がドル建ての企業について)オプションやら先物やら、為替ヘッジの手段ばかり議論しているが、中長期的にはビジネスの本業においてナチュラル・ヘッジの状態を作れるよう、海外サプライヤーからの調達を増やし、ドル建ての借入を増やす、など企業体質を変えていく施策が必要ではないか。

4. 「パッション」で勝負する

HBSの学生は、皆スレているというか、斜に構えているというか、何か純粋さを失ってしまっている気がする。学長がいいことを言っても、"he is very diplomatic" と言って、パフォーマンスだと片付けてしまう。そこで、いつもは「ファクツや現場感で勝負する」とか言っているのに、突然リーダーシップやらミッションやら、正義感やら夢やら、恥ずかしいので隠しているが密かに憧れている(と思われる)青臭い志を語ることで、皆のハートに火をつける。

(例)
ケースの舞台は投資銀行のトレーディングフロア。凄腕上司の指示で、顧客をミスリードするような資料をファックスすることを要求される新入社員の話。複雑な為替の先物取引であるのをいいことに、不当な利ざやを得ようとするが、顧客が疑い始めている。そこで、彼らが納得するような、実は本件には該当しないような間違っている資料をファックスするよう指示されているわけだ。

皆は、いかに自分のポジションを守りつつ、会社にとっての儲けを確保することができるか、上手に「落としどころ」を探そうとする。反対の人も、短気なトレーダーの上司に首にされないよう、どうやって自分の職を守ろうか、そんな視点から議論している。ちょっと違うんじゃないの、そう思って授業の後半で手をあげた。

 *****

 これまでの発言を聞いていてもそうだけれど、僕たちはついつい、tacticalに意思決定をしがちだ。でも、自分のよりどころとなるprinciple, valuesを持たずに、そうやってその場その場での判断をしようとしていると、本当にグレーな問題に直面したときに、誤った決定をしてしまうのではないか。これまで見てきた大きな企業スキャンダルも、その場しのぎの判断の結果として起こったように思える。

 僕が言ってることがナイーブだと思わないで欲しい。僕も22才の新米アナリストだったら、落としどころを探し、誰よりも上手に立ち振る舞うことができたと思う。でも30近くになって、この学校で教育を受けてきた今の自分は、自信を持って言うことができる。指示されたことはできません、それは自分のprincipleに反するから。僕はもう何らかのパズルを解くように最適解を見つけようとするのは辞めて、自分の明確なprinciple、ぶれない軸に基づいて、胸を晴れるような判断をできるようになりたい。

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BCGでコンサルタントをやっていたとき、社内ミーティングで調べてきたことを言っても、「うーん、なんか面白くないんだよなぁ」と言われることがよくあった。それはすなわち「洞察力=インサイトに欠ける」ということを指摘されていたのだが、上で述べてきたことも、結局は「いかにインサイトあふれる発言をするか」ということであるように思えてきた。

皆が大上段で議論しているときは、ぐーーんとレンズのピントを絞って、現場感べたべたの話や、数字やファクツをベースにしたrigorousな議論をする。逆に皆が定量的な議論しているときは、ぐーーんと引いて定性的なビッグピクチャーでの議論をする。あるいは、ついつい現実の制約に縛られ、小さい話ししかできなくなっているときは、恥ずかしいくらい大きなビジョンを語ってみせる。

そういう意味では、これらの「視点」は、決してHBSのケースメソッドという限定的な場面だけではなく、より広いビジネスの場面でも活用できるのではないか、そう思うに至り、このたびご紹介させていただいたというわけだ。

by tsuyoshi_829 | 2005-09-29 02:37  

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